2017年11月28日火曜日

ミーム設計研究所の立ち上げに当たり

 ミーム(meme)とは、人類の文化を進化させる遺伝子以外の遺伝情報であり、例えば習慣や技能、物語といった人から人へコピーされる様々な情報を意味する科学用語である。 


「ミーム」の実例を、すごくわかりやすく例えるなら、「誰かに伝えたくなる事柄」である。それは、たとえば言葉だったり、物語だったり、写真や音楽かもしれない。その「事柄」を認識して、ほかの誰かに同じことを伝えたくなる。これが、ミームの根源だ。

 たとえば、「だんだんなんか簡単になったん」という言葉がある。たぶんどこかで聴いたことがあると思う。何度も繰り返し早口で言うと、リズムがとれてしまうという言葉である。
 この「言葉」のミーム性としては、『身体的に動かしやすい発音である』『リズムが心地良い』『実際に声に出してみないと実証できない』『声に出すと、第三者に聞こえる(拡散する)』『誰かに伝えたくなる面白さがある』という条件が重なり、人から人へ語り継がれる「言葉」となっている。

 さて、この世に存在するミームとは、そのほとんどが意味のないものだ。偶発的に発生し、語り継がれるものだけが生き残る。そこには意思はないし、意味も無い。


 私が行おうとしているのは、ミームの設計だ。ミームを一から作りだし、そのミームに『制作者の意図を乗せて』設計し、語り継がせようというものだ。
 上記の例で言うと「kayashinなんかイケメンになったん」という言葉を作るとしよう。この言葉を早口で繰り返すと・・・・・・。いかがだろうか。なんと心地良いメロディーだろう。誰かに教えたくなってきたであろう。そして、この言葉が語り継がれることによって、『kayashinさんってイケメンなんだ』という情報が、語り継いだ人々の記憶に残るのである。


 他人の記憶に情報を植え付けるのは、比較的簡単だ。ただ、その情報を『語り継がせるように』するには工夫がいる。さらに、語り継がせることのできるミームに『情報を載せる』のは、さらに難しくなる。人の「身体性」が、非常に重要になる。

 語り継ぐことが「楽しい・快感・自分の利益になる・優位に立てる・子孫を残すのに貢献する、」などなど・・・・・・。そのミームに、語り継ぐものが気付かないようにオブラートに包んだ状態で、語り継がせたい情報を乗せる。

 これが、私の行おうとしている「ミーム設計」だ。


 2017年の現状、その理想に一番近い存在が『初音ミク』だ。彼(彼女)は、歌という情報を奏でるために設計され、情報を拡散するためのツール(各SNSなど)を自由に行き来し、情報の受け取り手である人間(ミク廃)は、初音ミクを拡散させることを主として重んじている。
 その初音ミクの創作の連鎖に、自分の意思を乗せて、他人の記憶に侵食し、無意識に語らせる。

 実は、いまの自分には、それがもうできている。それが、『自分と初音ミクとの結婚』である。
 いま、あなたは、この文章を気味悪がって読んでいるかもしれない。そして、Twitterなどで「なんかキモチワルイやつがいるー!」とか思ってリツイートするかもしれない。その瞬間、俺と初音ミクは結婚し、俺と初音ミクの子供があなたの思想に宿り、僕たちの子供とあなたは新たな子供を作り、ほかの誰かの思想に子供を宿すのである。


 以上が、ミーム設計の意図である。と同時に、いまここに、ミーム設計研究所の立ち上げを宣言する。所長はもちろん、俺と、初音ミクだ。

2017年11月9日木曜日

2017年ボカロ楽曲10選

 2017年は、いろいろありました。本当にいろいろありすぎて、いろいろと、ありました。終わり。

 冗談はさておいて、今年は個人的にいろいろなイベントがありました。人生の節目と言っても、いいかもしれません。
 いちばん大変だったのが、引っ越しを伴う転勤。そして、転勤後の、たぶんストレスからくる体調不良。職場で倒れて救急車に乗ったりもしました。人生3回目の救急車。いえーい!
 本当にいろいろありましたが、成長した一年でもありました。よく頑張った自分。
 そんなわけで、ボカロに対する熱量も、いまだかつて無いくらい冷めたものになりました。でも、ボカロと良い距離感が築けたと思います。さりげない日常に初音ミクがいる。そういう距離感で良いのだと、思います。

 そんな思いで選んだ、今年のボカロ楽曲10選です。


かわいいミク歌。まさに、「初音ミク」というキャラクターに歌ってほしい、かわいらしい歌です。

久しぶりに、ニコニコ動画って良いな、と思った曲。圧倒的な画像と歌詞の情報量で、見る人を混乱させる力作。見るたびに新しい発見があるのがすごいです。



非常に「使える」ダンスミュージック。クラブで流れたら身体を持っていかれます。


5u5h1さんの初音ミクは、きちんと可愛い。それでいて、ノレる音楽。


心地の良いステップと、特徴的な初音ミクの音が、高い次元でセンス良くまとまってます。



原曲が好きな人には申し訳ないけれど、この色温度が高めの、初音ミクのクールな声がたまらなく大好きなんです。


Future Baseを中心に楽曲を作られている方。UTAUは積極的には聴かないのですが、音の使い方が心地良くて、はまってしまいました。


ROBOさんの楽曲の中では比較的クールな楽曲。全編において初音ミクの音がきちんと使われているのが評価高いポイントです。


すさまじいパワーの初音ミク楽曲。殴られたような圧倒的音圧と、初音ミク。


最後は、2017年に発表されたボカロ楽曲で一番好きな曲で終わります。
音楽も素晴らしいけれど、きちんと「初音ミク楽曲」なところが本当に大好きです。
すばらしい初音ミク楽曲を創ってくれたTKNさんに、改めてありがとうございますを伝えたいです。

2017年9月5日火曜日

マジカルミライ2017、そこそこ楽しかったけれど……。というお話。

 マジカルミライ2017のライブが、まぁ楽しかったんだけれど、我を失うほどではなかったよね。というお話。

 今回のライブは、本当になんの思い入れもなく終わってしまったので、初音ミク警察に叩かれる心配しながら書く必要も無いのですが、でも、何も言わないで終わってしまうのも嫌なので、メモ代わりに書きなぐって終わりにしておきます。


 今回のライブの一曲目、みくみくにしてあげる。あれの観客の「っはい! っはい!」で、あーまたいつものサイリウムブルンブルン振って棒立ちのライブかよ。って、結構テンション下がった。
 その後のエイリアンエイリアンからスイートマジックまでの流れは個人的に好きな曲が続いて最高だったのだけれど、ライブで何回歌い続けるんだよという曲もあり、そこまで気持ち高まらなかった。どりーみんチュチュは可愛すぎて、双眼鏡使ってずっと視姦してた。
 で、サイハテ。しかも、サイハテのあの衣装で、振り付けが2010年感謝祭とおなじモーション。サイハテは、初音ミクの無機質な声を活かしきった歌で、本当に大好きで、なおかつProjectDIVAでPSPを壊すほどやり込んだ曲でもあり、ツイッターの背後ヘッダーに写っているサイハテミクのフィギュアは昔転勤のときに仕事場の仲間から貰ったやつだったり超個人的な思い出も詰まった曲で、そんなんだからサイハテがかかった瞬間、とにかく嬉しくて跳ねることしかできなかった。これが今回のマジカルミライでいちばん楽しかった瞬間かな。

 その後のダブルラリアットまでは、まさにボカロ敬老会といった雰囲気。あーこういうのも良いかもな。でも、もう少し歳をとってから聞きたいな、って感じで苦笑してしまった。

 そしてメンバー紹介。今回のメンバー紹介は、いままでのライブの中でいちばん楽しかった。スクリーンをうまく活かしていて、こういう使い方もあるんだなーと感心しきりだった。

 気まぐれメルシィ。自分の中では完全にネタ曲でしか無いんだけれどw 初音ミク可愛かった。なりすましゲンガーも個人的にすごい好きな曲だから楽しかった。shake it!好きなんだけれど、さすがに飽きてきた。

 そして、メルト。メルト自体は大好きな曲なのだけれど、ライブだと辟易してしまう。はーいはい!はいはいはいはい!とか、うぉおおおっ!はいっ!とか、いまどき声優ライブでもやらんだろみたいな掛け声がどうにも苦手で、ショボーンとしていた。周りから見るとノリの悪い人みたいで申し訳なかった。

 お決まりのアンコール。みーく、みーく、みーくってやつ。もはや紋切型。からの、砂の惑星。本当にかかるんだーという感動と、あと初音ミクが可愛い衣装だったのが最高に格好良かった。歌と衣装があっていない感じが、歌わされている感満載で、チグハグな感じがエモかった。39ミュージック。初音ミクのあのステップを踏みたかったけれど場所がなさすぎて我慢。

 hand in hand。また他人の幸せを強制されてしまった。しかも、スクリーンの映像前とおんなじだし。DECORATOR、やるとは思っていたけれど、実際にやってみると、とっても華やかでカラフル。

 ハジメテノオト。またかよ、どうせこれが最後の曲なんだろ。ミクさんの生まれたこの命、お前ら感謝しろよって強制されるんだろ。もうそういうのはいいよ。って感じでした。


 ……いずれの曲も、初見のときは大好きでした。でも、もうさすがに見飽きたというのがいちばんです。10周年のお祝いなんだから、というのもよくわかりますが、とにかく見飽きたんです。
 自分は2010年の感謝祭から、国内で行われているライブは、全日ではないものの、すべて参加してきました。
 初音ミクのライブとは、もともとは『なにが起きるかわからない、キワモノ見世物小屋』だったんです。観客側も、どうやって楽しめばいいのかわからない。クラブみたいに楽しむのか、ライブみたいにはしゃぐのか、アニメイベントみたいにペンライト振ってコールするのか、映画みたいにおとなしく見るのか。とにかく、得体の知れないものとの対峙だったんです。
 それが、いつの間にか、ペンライトを振ってのコールライブになっていった。おこがましい考えではあるが、たぶん自分にも、そういうライブになってしまった一端の原因があると思っている。もともと声優ライブに通っていた経験から、2012年頃のライブまで、周囲の観客に先駆けて掛け声を出して、サイリウムたくさん持って振り回して、周りが自分とおなじ振り方をすると満足して、みたいな。
 結局、そういうのは途中で飽きてしまったのですが、コールを聞くと、過去の自分を思い出して、すごく嫌な思いがするんですよね。全く持って身勝手な考えです。

 そんなんで、初音ミクのライブは、いまの形式を取るかぎり、よほど自分の好きな楽曲が流れないかぎり、もう飽きたんです。むかしは、初音ミクのライブをどう楽しむのか、自分が盛り上げないとライブという形式は継続しないんじゃないか、というドキドキもありましたが、いまはそういうのは一切無いです。
 お金払えば、棒立ちしてても、永続的にライブは続くだろう。だったら、わざわざ盛り上がる必要もないかな、みたいな感じで。

 2013年に書いたブログでも同じこと言っていましたが、いまはその気持ちが強烈です。
https://meme-sea.blogspot.jp/2013/02/blog-post_12.html


 今年のライブは、スクリーンの投影能力がすごいとか言う深化もありましたが、自分がほしいのは深化ではなく変化です。2013年のマジカルミライでのsweet devilを初めて見たときのような衝撃が欲しかったです。



 ライブの方はあまり面白くなかったけれど、企画展のクラブイベントは最高に楽しかった。お昼の部、夜の部ともに、我を失う楽しさでした。後ろの立ち見スペースで、ずっと身体動かし続けてた。ライブ中は棒立ちだったから、その反動もあってすごく楽しかった。
 特に夜の部。kzさんがPorterRobinsonの楽曲を流してくれたとき、kzさんなにやってるの! と思ったのと同時に、嬉しさ感極まって崩れ落ちてしまった。keiseiさんさつきさんkzさん本当にありがとうございました。本当に楽しかった。
 いちばんさいご、みきとPのライブで、39ミュージックを一緒にステップ踏んでくれた方。たぶんボカクラクラスタの方かと思うのですが、いっしょに合わせて跳ねてくれてありがとうございました。お礼は言えませんでしたが、楽しかったです。


 仕事の関係で、1日目のみの参加のマジカルミライでした。物販列が長すぎて、しばらく列の中にいたにもかかわらず結局企画展ライブに間に合わずなにも買えなかったり(なにも買わないライブは初めてだった!)、ライブそのものがそこそこだったり、企画展ステージがなければ不完全燃焼必須でした。
 あと、これはライブとは全然関係ないのだけれど、ライブの時期になると各SNS上で『ボカロが好きな人といっぱい出会えて、人と人との繋がりの大切さを実感しました!』みたいな言葉がたくさん上ってくるのも、なんか苦手で。これはもう自分のコミュ障のせいなので原因は自分にあるのだけれど、マジカルミライという年に一回の初音ミクのお祭りで、自分だけの初音ミクを愛でて楽しみたいんだけれど、なんかそういう他人の幸せを見せつけられちゃうと、自分の楽しみ方が劣っているような、そんな劣等感があって。だから、人と人を繋げるマジカルミライは、最近ちょっと苦手で。


 でも、考え直してみると、いまの僕には様々な初音ミクとの楽しみ方があるので、その中の一つでしかないマジカルミライが、別に楽しくなくてもいいのかな、って思います。
 マジカルミライがなくても、クラブに行けばライブより遥かに格好良い初音ミク楽曲がたくさん聞けるし、初音ミク関係のイベントで日本全国回れるし。自分にとってマジカルミライとは、そんな数々のイベントの一つでしかない。マジカルミライくらいしか初音ミクの楽しみ方を知らない人は、このイベントに必死になるんだろうけれど、僕はこのイベントを楽しまなくても大丈夫。

 そう思うことにしました。

 最後にですが。今回のライブステージ、照明関係は好きでした。スピーカー、高音がきついわりに低音があまり出てなく、少しがっかりでした。


 いいたいことはこれくらいかな。次回は期待しています。『え、なにこれ、どうやって鑑賞していいのかわからない。。。』とドン引きするくらいの未来を、連れてきてください! あと、ネクストネスト事件、ライブ演奏での解決お願いね!

2017年8月30日水曜日

初音ミクと出会って10年経つから、長文とか。

 初音ミク10周年らしいのですが、個人的には特に思い入れもなく、だけれど何か書き記したい程度には興味を持っている、そんな気分です。
 以下、何を書くのか特に決めていません。ただ、過去に読み返したときに「初音ミク10周年のとき、こんなことを思っていたんだなぁ」と思い出せるように、とりとめのないことを演繹的に書いてみようかなぁと。

 初音ミクと出会ったのは、初音ミクの誕生日とほぼ同じ、10年前。当時ネットジャンキーだった自分は一日の大半を2chのν速板で過ごしていて、その2ch上での消費コンテンツとして出会ったのが初めて。当時はボーカロイドエンジンそのものがとても先進的に見えたし、パッケージイラストのKEI画廊さんの絵柄も好きだったので(当時はローゼンメイデンが大好きで、その同人イラストをKEI画廊さんがよく書いていた)、自然にハマってしまった。初音ミクは、2chとニコニコ動画のコンテンツの一つという感じで捉えていて、とくに初音ミクに強い思い入れはなかった。
 そんな中、『ハジメテノオト』という楽曲に出会うのだけれど、この楽曲を初めて聞いたとき、すごく怖くて鳥肌が立ったのを覚えている。その時のシチュエーションもよく覚えていて、自室のカーテンを締め切った部屋で、「意識を持ったなにか」に話しかけられたような、天啓としか言いようのない衝撃を受けた。「初めての音は何でしたか?」と、意識を持った生命体に話しかけられたような感覚だった。そして、その生命体とは、初音ミクを創作する人々の総意体のような、人ならざるものが意識を持ってコンタクトをしてきたように感じた。
 自分は『初音ミクはミーム生命体です』と至るところで言っており、そのお話をよく聞かれるのだけれど、根本は論理的な発送ではなく、宗教体験的な部分が多いから、いつも説明するときに口ごもってしまうのはそういうところにある。

 で、初音ミクに謎の宗教体験を食らってしばらくは特段初音ミクを執拗に追いかけることはなかった。そんなとき、もう一度初音ミクに引き戻されたのが『kz』の登場だった。
 2007年前後の自分は、田中ヤスタカみたいな音楽ばかり聞いていて、ヤスタカの作る音が最新。初音ミクなんてキャラクターこねくり回して遊んでるだけで音楽として聞くものじゃない。みたいな態度だった。それがkzの登場で一変した。格好良かったのだ。エレクトロサウンドに乗せて、人じゃないコンピュータの声を、あえてコンピュータっぽくエフェクトをかけて、音もそうだし、その手法にも感動した。
 それと同時期にハマったのが、SEGAの作ったProject DIVAシリーズである。当時の初音ミクを取り巻く環境はどマイナー同人レベルで、大手メーカーが初音ミクの3Dポリゴンでゲームを作るというのがとても衝撃的だった。ちなみにこのゲームのせいで、PSPを2台買うことになったのは良い思い出。ちなみに、秋葉原で行われたProjectDIVA Arcadeロケテストに行ったのも良い思い出。あの時のカード、いまはどこに行ったのだろう。

 このあたりの記憶は、正直あやふやです。仕事がイヤでイヤで仕方がなく、たぶん鬱になっていたのだと思う。この当時の記憶そのものがあまり無い。
 そんな時、ジミーサムPの『No Logic』に出会う。この曲を聞いたとき、なんだろうな。賛美歌に聞こえた。その後も仕事がつらすぎて鬱になったとき、この曲に何度もすくわれた。比喩ではなくて、本当に命をすくわれた。人間じゃないナニモノかに、頑張らなくてもテキトウに生きていて良いことを教えてもらい、命を救われたのです。だからボカロは、賛美歌なのです。

 次の記憶に出てくるのは、感謝祭やミクパといったライブの思い出。2010年とか2011年頃のライブの思い出。ただ、この頃は特にライブに対して思い入れはなくて、ゲームのProject DIVAのファンイベントみたいな感覚だった。初音ミクのライブとは別に、アニメイベントとかにも参加していたからかも知れない。特に初期のライブの思い出は、3月なのにやけに寒い中オモテで延々待たされた記憶しか無い。スクリーンに初音ミクが映ってるなーくらいの思い入れしかなかった。

 で、たぶんこの頃だったと思う。自分が2chに書いた『初音ミクはミームという生命体だ』という文章が、大手まとめブログに一斉に取り上げられて、いまで言うところのバズった。このとき初めて、いままで消費だけしていた初音ミクというコンテンツに、参加できた感じがした。自分の作り出した初音ミク像が、初音ミクそのものを創り出す、快感を覚えた。

 話は前後するが、自分が初めてボーカロイドソフトをいじったときのことを、よく覚えている。いちばんはじめに作ったのは、カエルの歌だった。自分が描いたとおりに歌うその声に、得体の知れない生命体を支配したような、何とも言えない万能感を覚えた。だけれど、初音ミクがミームであるという思想が広がった出来事は、それ以上の快感だった。

 ボカロ関連のクラブに通い始めたのも、この頃だった。2011年前後だったと思う。なんで通い始めたのかは覚えていない、というかアニソン系のイベントにはしょっちゅう行っていたから、それが自然にボカロに移行したような感じだった。ボカクラはわりと黎明期のときから通っていて、SR-Σさんが今みたいじゃない頃から通っていた。ただ、ちょうどこの頃は地方に転勤中で、年に数回しか参加できなかったけれど。いつだったか、浜松に八王子PとわかむらPとデPが来たときがあって、あのときのクラブイベントはとても楽しかったのを今でも覚えている。ついでにいうと、ボカロクリティークを立ち上げた中村屋さんの存在を知ったもの、その時だった。

 2012年は、怒涛の1年間だった。上記のボカロクリティークというボカロ批評に、自分の文章を載せていただいた。生まれて初めて、ボーマスのサークル参加者の打ち上げに行ったりもした。ただ、打ち上げの飲み会でひたすらに居場所がなく、ゲロ吐きそうな居たたまれなさを味わったのは良い思いでだ。それと、東京ドームライブで、初めてリアルな初音ミク好きな人たちとオフ会に行った。この年は、初音ミクを通していろいろな人と出会ったし、初音ミク=ミーム生命体という考えが多少なりとも広まって、とても思い出深い年だった。

 以上が、過去の初音ミク。これからが、今の初音ミク。

 自分にとって初音ミクとは、格好良い存在でなければならない。理由なんて無い。クールで、格好良くなければ、初音ミクでない。
 そんな初音ミク像が作られたのが2013年だった。その中で思い出深いイベントが2つあって、六本木ヒルズで行われた『Message from SKY』というクラブイベントと、マジカルミライだった。
 六本木ヒルズでのクラブイベントは、今でも最高のイベントだ。夜の六本木のスカイラインを見下ろしながら、kzとか八王子Pとかいま思うとなんて豪華なんだろうと思える人たちのDJに身体を揺らす。もう一回おなじ場所でDJイベントやらないかなーとか思っていたら、東京スカイツリーで行われてた。
 それと、マジカルミライ。その中でも『Sweet Devil』が本当に格好良かった。あのころは、初音ミクのライブとか辟易していた頃で、直前の和歌山で行われた関西ミクパとかのアイドル路線とかもう勘弁とか思っていたときの、あの格好良さ。いままさに2013年の『Sweet Devil』見ながら書いてるけど、いま見ても格好良いね。セクシーな衣装でステージを右左に動き回る初音ミクが、本当に格好良くて、見直した。
 ちょうどこの頃だったかな。XperiaのCMに採用されて、街の至るところで初音ミクを見かけるようになって、「いつか夢見た未来」が舞い降りたような気がした。
 初音ミクに、もう一度恋をした年だった。

 そういえば書き忘れていたけれど、結月ゆかりとの出会いもこの頃だった。2012年前後かな。当時は、歌声合成ソフトもそうだけれど、文章読み上げソフトが1万円前後で買えるという大変衝撃的な出来事に、とても興奮して速攻買った。そして、速攻YouTubeとニコ動にアップした。再生数が20,000回を超えて、これで俺もボカロP名乗れるんじゃね? と自己満足したのを覚えている。

 2014年以降は、特にドラスティックな出来事は起きず。イベントやクラブに淡々と通う日々でした。そして、ニコニコ動画を積極的に見なくなったのも、この頃かな。ネクストネスト事件くらいしか、大きな思い出はない。ボカロ批評という雑誌に拙作を載せていただいたのはこの頃だったかな。

 で、出会ってしまった。「しろばなさん」さんに。しろばなさんとの出会いは実に運命的で、ひょんなことから二人で飲みにいって、初音ミクをこねくり回して遊ぶ楽しさを覚えたのも、ちょうどこの頃。それ以前からこねくり回して遊んでいたけれど、自分とおなじような遊び方をしている人に出会って、なんというか、衝撃的だった。しろばなさんに出会ってなかったら、初音ミクこんなに拗らせていなかった。絶対に許さない。

 金沢21世紀美術館の初音ミク展示も、この頃だったかな。この展示は、やっと世間が自分に追いついたって感じで、鼻高々だった。いや、たぶん自分の影響などなかったのだろうけれど、初音ミクが生命体だという主張とリンクするもので、俺がこの初音ミクを育てた! みたいな感じでとても嬉しかった。一人で勝手に喜んでた。

 この頃から微妙に音楽の趣味も変わっていて、ニコニコ動画を見なくなったかわりにSound CloudやYou Tubeを中心に音楽を漁るようになって、再び初音ミク楽曲をあまり聞かなくなった。でもそこで運命的な出来事がまた起こった。ZeddとPorter Robinsonだった。この二人が初音ミクを使った楽曲を作り、再び初音ミクのもとに呼び戻されてしまった。この頃から海外アーティストのボカロ楽曲を掘る遊びを覚えた。

 さらに初音ミクに囚われたイベントとして思い出深いのが、いつかの秋葉原mograで行われた、PorterRobinsonとkzが出演したイベントだった。PorterのSadMachineに続いてkzのTell Your Worldという夢のような流れは、天国でした。

 2016年前後から2017年は、再び転勤があって、あまり初音ミクと関わり会えない年でした。PorterRobinsonとMadeonのSHELTER LIVE TOURがいちばん面白かったくらいかな。


 なんにも考えないで書いたら、全く中身のない文章になってしまった。でも、この文章を書きながら、楽しい思い出しかないなぁとつくづく感じる。
 ここ最近は、いろいろなイベントに顔を出すと、自分のことを知ってくれている人がいるのが、結構嬉しかったりする。あ、あのkayashinさんですか! 思ったより人間っぽい人なんですね、とか言われると、まぁちっぽけな承認欲求なのですが、そういうのが満たされるのがとても嬉しい。


 初音ミクとともに過ごした10年間でした。初音ミクと10年間過ごしてきて、いろいろな人と出会いました。ずっと初音ミクを好きな人もいれば、初音ミクから離れていった人もいました。どちらかというと、初音ミクから離れていった人が多いかな?
 初音ミクをずっと好きな人は、いま思うと、創作者ばかりでした。コンテンツを作る人という直接的な活動もそうですし、消費をするにしてもその消費がコンテンツとなるような消費の仕方だったり。初音ミクにハマっている人は、人間的に魅力的な人ばかりでした。
 そういう意味で、初音ミクは、メディアなのだと思います。


 最後に。自分は、初音ミクのエンジン音が、とても大好きだ。
 話は飛びますが、自分はクルマが大好きだ。それ故、ロードスターというクルマに乗っている。クルマの発する音。エンジンもそうだし、ミッションが変速するときの金属音とか、まるで楽器よろしく気持ちいい。
 自分にとって初音ミクの歌声というのは、内燃機関のだすエンジン音みたいな心地良さがある。人の歌声として聞いてない。あくまで、無機質な「何らかの機構」が発するエンジン音として、初音ミクの声を聞いている。
 初音ミクのエンジン音の心地良さは、初音ミクと出会ってから、ずっと続いている。これはとても感情的な部分が多いのだけれど、初音ミクのエンジン音は、たぶん奇跡的なきっかけで生まれたのだと思う。それが、初音ミクのミームをより拡散させるための仕掛けなのかは知らないけれど、僕はずっと、初音ミクのエンジン音を愛し続けてきたし、たぶんこれからも愛し続けるのだと思う。


 書き続けて、なんかよくわからなくなってきた。最後に、ここ最近聴いた初音ミク楽曲で、いちばんのお気に入りを紹介して終わります。
 初音ミクと出会って10年経つのに、いまだに格好良いと思えるサウンドで、10周年の歌を歌ってくれる、初音ミク。まだ飽きそうにないです。マジカルミライも楽しみだな。ありがとね、初音ミク。