2019年1月30日水曜日

10年前のボクへ、神様、この歌が聞こえるかい?


 僕はボカロに救われたことがある。命を救われた。人生を、救われた。

 いまから9年前。いまの会社に入社して間もなく、転勤を命じられた。
 場所は、なにもない田舎町。当時の僕はなにも考えていなかったが、よくある、余剰人員を地方に送られたとか、そんな感じの誰も望んでいない転勤だった。

 転勤後、初めて会社に行って、笑われた。当時の僕はクルマを持っていなくて、自転車で職場に行った。そしたら、笑われた。自転車で通勤なんて、学生じゃないんだからw と。

 けっきょく、その職場には、なじめなかった。同僚はみなどこかよそ者扱いだったし、方言が激しい地区だったので、ときどき本気で相手がなにを言っているか分からないなんてこともあった。

 味方なんて誰もおらず、周り全員が敵に見えた。会社に行けば要領が悪いと怒られる。友達もいない。気軽に世間話をできるような人もいない。この世界は全員敵で、僕は誰にも頼ることができず、一人で殻に閉じこもりひたすら耐える日々だった。

 そんな時期によく聞いていたのが、「No Logic」という曲だった。
 そのときの僕は、本当に人間が大っ嫌いで、「なんでこの人はこんなに僕に敵意を向けてくるんだろう」と怯えていた。
 「No Logic」の巡音ルカの歌声は、フラットで、感情もなく、さらりと歌い上げている。その無感情な歌声は、僕には神様からの声に思えた。
 ちょっと大げさかもしれないけれど、巡音ルカの歌声は、天啓だった。
 天国だか宇宙だか知らないけれど、この世界の総意体みたいな何かが、巡音ルカの歌声を通じて、僕に『無理はしなくていいんだよ』と言ってくれているような、そんな気がした。

 この歌があったから、僕はあの転勤生活を乗り切ることができた。本当に辛かったけれど、僕は、ボカロに命を救われた。


 むかしはあれほど嫌だったいまの仕事だけれど、幸いなことに、いまは楽しくやっている。そして来年度には、大きなプロジェクトに参加するため5回目の転勤をする予定だ。
 だから僕は、9年前の僕に、巡音ルカの「No Logic」を送ってあげたい。
 
神様、この歌が聞こえるかい あなたが望んでいなくても
僕は笑っていたいんです そして今叫びたいんです
いつだって最後は No Logic

 僕がいま歌ったこの歌詞は、きっと神様に届いて、9年前の僕に届けてくれるのだろう。巡音ルカの歌声で。ありがとう、神様。ありがとう、ルカさん。いまの僕は、そこそこ楽しく人生を、生きています。